人が亡くなると、その権利義務の承継について話し合いを行うというのが遺産分割協議という話でしたが、 その遺産分割協議は相続人の「全員」で行わなければ無効となってしまいます。また、相続税の申告などを要する場合もあるため、 相続が発生した場合に行わなければいけないのは、相続人の調査と相続財産の調査となります。
相続人の調査は、一般的に以下のものが必要となります。
① 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍・改製原含む)
② 相続人の戸籍謄本
(③ 亡くなった方の住民票の除票)
(④ 相続人の住民票の除票)
以上のものが必要となります。
但し、亡くなった方の相続人に該当する方で、例えば先に死亡しているお子さんなど
「すでに亡くなっている人」がいる場合は、その人の戸籍謄本も出生から死亡までのものが必要となります。
なぜこのように「出生から死亡まで」のものが必要かと言いますと、日本の戸籍は出生から戸籍謄本が作成され(親の戸籍などに記載されます)、死亡するまで身分について記録が残ります。
例えば、結婚、子の出生、養子縁組をした(受けた)場合、認知をした(受けた)場合、子の婚姻等による除籍など、身分関係が記録されます。
しかし、戸籍謄本等は各役所で管理されるため、転居などにより戸籍謄本も異動させた場合、異動先の役所において戸籍を新たに管理し、異動元の役所においては戸籍を閉鎖(除籍)します。
また、法律の改正や電算化などにより戸籍の様式が変更され戸籍の作り変えが行われます(改製)。そういった場合に、新たに作られた戸籍謄本には一定の記載事項は引き継がれますが、
すべて引き継がれるわけではありません。すべての戸籍謄本を収集して、その身分関係の調査を行い相続人を確定する必要があるのです。
遺産分割協議は相続人の全員で行わなければいけないという前提があるため、戸籍謄本等による相続人の調査において、知らぬところで養子縁組がされていたり、認知があったりすることもあります。
そういった相続人も含めて全員が関与して遺産分割協議を行わないと相続人に漏れがあった遺産分割協議は無効となってしまうのです。
相続が開始すると、相続人の調査と併せて、相続財産の調査を行う必要があります。
財産というからには、現預金、不動産、株式などをイメージしますが、住宅ローンの借金の返済義務などのマイナスの財産も相続財産となります(団信生命保険などありますが)。
さて、ではどのように行うのか。
- 現金:財布やタンスや金庫にあるものです。
- 預金:亡くなった方の預金通帳を確認する必要があります。
- 株式:証券会社から届く郵便等を確認します。
- 不動産:登記済権利証や、亡くなった方宛に届く納税通知書(4・5月頃)を確認するか、市役所などで「名寄せ」という名義人の課税一覧を取得することで確認することができます。 但し稀に、山林や原野の評価が低く固定資産税が課税されない場合もあり明らかにならないことがあります。
- その他:ゴルフ会員権などなんらかの通知書を頼りに調査をしますが、全てが明らかにならない場合もあります。
財産の種類 | 調査方法 |
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不動産 (土地・建物) |
固定資産税通知書や権利書、市区町村発行の名寄せ等で確認。 |
動産 (自動車・機械・美術品) |
自宅や別荘、勤務先、入院先、貸金庫を調査。 |
現金・小切手・預貯金等 | 通帳で確認。金額確定出来ない場合には残高証明書を発行してもらう。 |
有価証券 (株式・公社債・投資信託等) |
株券で確認。残高証明書を発行してもらう。 |
財産の種類 | 調査方法 |
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借金(住宅ローン、カードローン、 クレジットカード会社への支払い等) |
個人信用機関で借金の有無を確認。 クレジットカード、被相続人宛の手紙や請求書、 全部事項証明書の抵当権の記載等から調査。 |
未払いの税金 (固定資産税、所得税、住民税等) |
被相続人宛の手紙や督促状を調査。 |
保証債務・預貯金等 | 被相続人宛の手紙や請求書を調査。 |
相続人の調査もし、相続財産の調査も終えたら、次は、遺産分割協議に入ります。
「遺産分割協議」という形式的な手続きがあるわけではなく、端的に言うと相続人間の話合いです。
ここでは、「誰が何を相続するか」ということを決めます。相続分に応じた現金を希望する人もいます。
場合によっては、「何も相続しない」という人もいます。
従って、法律上は「法定相続分」というものがありますが、一般的にはこのように「誰が何を相続するか」という話し合いを行うため「法定相続分」での相続というのは極めて稀となっており、
「法定相続分」は遺産分割協議における参考程度ということがほとんどです。
話し合いができ、「誰が何を相続するか(しないか)」を決めたら、それを文書化し相続人全員で記名押印します。このとき、不動産の登記手続上や銀行の手続上、 遺産分割協議の記名押印は「個人の実印」で行い、それに各相続人の印鑑証明書を添付するのが一般的となっています。
相続開始後、裁判上の手続を行うこともあります。
主要なものとしては、下記の3点となります。
① 相続放棄
② 限定承認
③ 遺産分割調停
相続について、遺産分割協議や調停が終えると、不動産の名義変更の手続を採ります。
遺産分割協議を経て行う相続登記において必要な書類は一般的には以下の通りです。
なお、調停を経た場合は、調停調書の正本を利用します。
一般的には、上記書類が必要ですが、他に書類が必要となる場合があります。
どういった場合かというと、不動産の登記事項は、所有者の「住所・氏名」であることから、戸籍謄本その他公の書類からは不動産の登記名義人の「住所・氏名」と、
被相続人の「住所・氏名」がつながらない場合などです。登記所においては、住所氏名につながりがない場合「別人」として扱います。
それは、世の中に同姓同名の人がいることもあるわけですし、仮に別人の同姓同名の人の不動産を、権限のない相続人に名義変更することは大問題となるからです。
氏名については戸籍謄本に記載され保存期間も長く、そう問題にはなりません。よく問題となるのは「住所」です。
「住所」において、除票などを見ると、「従前の住所」が記載されています。
死亡時の住所、住所、どちらかに登記名義人の住所が記載されていれば同一性を確認できます。
しかし、死亡時の住所にも、従前の住所にも記載がない場合どうするか。
また、さらに前の住民票を取得することになりますが、住民票の保存期間は、現行法上5年ですので、住所移転などがあった場合に5年経過していると、過去のものは取得できなくなってしまいます。
こういった場合は、戸籍の附票を使うことが多くあります(本籍地において取得できます)。
戸籍の附票は、本籍地を変更しない場合の住所変更について、変遷が記録されています。その場合、そのうちに登記名義人の住所が出てくれば、同一人であることが確認できます。
しかし、戸籍の附票も保存期間が5年ですので、転籍(住所移転ではありません。)をしてから5年を経過すると、その当時の附票は削除されてしまいます。
積極的に本人の同一性を証明する書類ではありませんが、登記済権利証があるということは、本人であるに違いないとの心証が高まります。 法務局にこのような書類を提供して名義変更することとなります。